【ファンタジー完結】チェンソーマン Reze編 -藤本 タツキ希のファンタジー小説マキマとデンジの架空の楽園
第六章:自己の死
その黒い塔の内部は、想像するほど陰鬱で血まみれではなく、むしろ、まばゆいばかりの明るさで、純粋な絶望感を呼び起こすほどだった。
壁も床も天井も、名状しがたい、完璧な純白の素材でできていた。時間の流れも風の音もなく、空気の匂いさえも完全に吸い取られていた。そこは完全な静寂、魂を浄化する守護神だった。マキマはデンジを導き、静かに床に足を踏み入れ、塔の最上部へと向かった。そこには余計な装飾はなく、ただ灰色の大きなソファが、絶え間なく照らされ、偽りの輝きを放つ日光に面して置かれているだけだった。
「デンジくん、着いたわ」マキマは優雅に座り、膝を軽く叩きながら、母性的な愛情に満ちた目でデンジくんを見つめた。「これで私たちの旅は終わりよ。今日から、もう戦う必要も、考える必要も、そして…デンジという名の重荷を背負う必要もなくなるのよ」
デンジマキマの足元に跪き、ぼんやりとしていた。肉体は無傷だったが、魂はまるで何度も解体され、慌てて縫い直された古い衣服のようだった。
デンジ』って何ですか? 」と彼は低い声で尋ねた。彼の声はあまりにも小さく、少しでも声を張り上げれば、その名前は塵のように消えてしまうだろう。
「デンジという名前は、苦痛と飢えと汚れに満ちている」マキマの指は、繊細な弦を弾くように、彼のこめかみに優しく押し当てられた。指先の冷たさが大脳皮質に染み込んでいく。「その名前には、借金のために自殺した父の重荷、実の父を食べさせられた罪悪感、ゴミ捨て場で野良犬と食べ物を奪い合った屈辱…そして、愛していたと思っていた人々が、結局は自分のせいで死んでいったことの重荷が込められている」
彼女が話しているうちに、デンジの心の中に残っていた破片が燃え始めた。
心の奥底で丸くなって、不安そうにすすり泣いているのが見えた。
をつけた早川アキが、狭い厨房で熱心にネギを刻んでいるのが見えた。包丁の刃がまな板に当たる音がはっきりと聞こえた。
彼は、パヴァがテレビの漫画を指差して笑い、鋭い犬歯を見せて、自分が世界の覇者だと宣言しているのを見た。
彼は、雨の中で雷潔が彼に手を差し伸べているのを見た。彼女の目には、彼には当時は理解できなかった悲しみが満ちていた。
「痛い…痛い」デンジすすり泣いた。それは生理的な、本能的な反応だった。マキマの支配によって意識は麻痺していたが、体の細胞はまだあの感情を覚えていて、彼のために涙を分泌していた。
「ええ、それは『エゴ』という名の猛毒だから」マキマの声には、死をもたらす誘惑が込められており、デンジの耳元で囁かれた。「それを私に渡せば、あなたは永遠の安らぎを得るでしょう。あなたはポチタの完全な殻となり、私の意志の一部となるでしょう。あなたはもうスラム街をさまようデンジではなく、私のヒーローである『チェンソーマン』となり、この世界で唯一、苦しむ必要のない存在となるのです」
ディアンジーはゆっくりと目を閉じた。
意識の奥深くに、かつて存在し、無数のルーン文字と鎖で覆われた「禁断の門」が目の前に現れた。今回は、門の向こうから恐ろしい記憶が湧き上がることも、幼少期の悪夢が蘇ることもなかった。ただ、終わりのない、すべてを呑み込む、死の闇だけが残っていた。
ポチタは暗闇の中で長く悲しげな泣き声を上げた。それは長年連れ添った相棒が、彼に最後の別れを告げていた。
「ポチタ……ごめん」デンジ心の中で弱々しく呟いた。「本当に疲れた。人間でいるのは……辛すぎる。何も考えず、夢を見ず、マキマさんの命令に従うだけの犬でいることが、もう傷つかないという幸せをもたらしてくれるなら……いいんじゃないか?」
まさにその瞬間、淀君は脳の奥底から「バキッ」という音がするのを感じた。
それは、ある人格構造が完全に崩壊し、砕け散る音だった。「レイゲ」への最後の心痛、「秋」への兄弟愛、 「パワ」への家族のような約束、それら全てが、この瞬間、塔の強烈な光に蒸発し、青白い灰と化した。
彼の野心、彼の欲望、そして彼の愚かだが下品なエネルギー、すべてがそのパチンという音とともに消え去った。
デンジが再び目を開けたとき、かつては野性味にあふれ、生き残るための欲望に輝いていた琥珀色の瞳は、マキマと同じように、完全に淀んだ水と化していた。
彼は泣き止んだ。
彼は震えをやめた。
彼の呼吸さえも、精密に調整された楽器のように、極めて規則的になった。
「マキマさん」彼は、深淵からのこだまのように、感情のない、平坦で冷たい口調で言った。「ご命令をお願いします」
目の前の「芸術作品」を見つめながら、マキマは人生で最も輝かしく、満足げな笑みを浮かべた。彼女は手を伸ばし、まるで窯から焼き上がったばかりの完璧な磁器を愛撫するかのように、彼の顔を優しく撫でた。
「いい子だね。」
窓の外では、偽りの強烈な陽光が灰色の森を明るく照らし続け、どこからともなく蝉の悲しげな鳴き声が聞こえてきた。鋭く、そして執拗な鳴き声は、まるで魂の最後の埋葬を告げる弔いの鐘を鳴らすかのようだった。
旅行は終わりました。
デンジという少年はこの美しい白い塔で亡くなりました。
生き残った者は、表面上は良識を装った単なる遊び人だったが、その心は完全に支配感で満たされ、「完全な幸福」を手にしていた。
世界の片隅で、かつて麗姫が泊まっていた喫茶店、かつて早川一家が住んでいた荒れ果てたアパート、かつて岸辺が酒を酌み交わした退廃的なバー―― 「淀路」の存在は急速に薄れ、やがて完全に透明化していく。
彼はずっと夢見ていた幸福、つまり、貧困から解放され、愛された人生を実現した。
その代償とは、彼が自分の人生から永遠に姿を消すことだった。 (…続く…)

沒有留言:
張貼留言